2026年8月14日 – IGポートの中期経営計画について

2026年7月15日、Hibiki Path Advisors SPC(「私ども」または「弊社」といいます。)の投資先の一社である株式会社IGポート(証券コード 3791、以下「当社」及び「IGポート」といいます。)が、決算発表に加えて中期経営計画の新しいローリング予想(見通しの下方修正)を発表し、その発表前日から昨日までで株価が▲18%と大幅に下落しました。また、今年度より、配当政策が、過去の配当性向25%から純資産配当率(DOE)に変更発表されたので、本投稿では、先ずはこのDOEについて、そして今回の中期経営計画についての私見をコメントしたいと思います。

私どもは、当社に2017年から長期間投資をしてきており、IGポートがアニメ制作と出版を中心とした旧来型の事業構成から、IPへの出資等を含めたアニメの大きいライフサイクル全般に関与しつつキャッシュフローの成長と安定化の両方を目指す姿勢に大きく転換を果たしてきた過去10年の変貌を心強く見守り、応援して参りました。その間に、ロングランの銀河英雄伝説に加え、進撃の巨人、SPY×FAMILYやハイキュー!!など多くの大ヒット作品を手掛け、世の中にIGポートの制作力を知らしめてきた素晴らしい10年でした。株価についても暦年ベースで見ると2014年末の301.8円(分割調整済)から2024年末の2,412円まで8倍近く上昇しました。

その後も、当社は著名なIPであるONE PIECEの新作の制作を引き受けたり、サンリオとの資本業務提携を発表するなど、事業環境が激変する中でも進化を遂げてきましたが、最近少し状況が変化しているように感じています。特に、今回の中期経営計画の修正発表での株価の大幅な下落が示したように、その内容及び計画そのものの考え方につき私どもも懸念を持っております。当社経営陣への叱咤激励の気持ちを込めて中期経営計画に関して主に2つの懸念点についてここに解説させていただき、今後の糧にしていただきつつ、改めて企業価値最大化へ道筋をつけるために奮起していただきたいと存じます。

先ず、その前に純資産配当率(DOE)の導入について触れたいと思います。私どもは今回のタイミングでのこの発表は英断であったと感じています。元々、私どもは全ての投資先の経営者の皆様に、DOEによる配当政策の株価に与えるプラス効果及びその歴史的な経緯から来る本質性について長年説いてきました。DOEには、①理論的には、赤字にならない限り(⇒純資産が増え続けることで)年々配当が着実に増え続ける、という配当の予見性・安定成長性が与える株価安定化のシグナリング効果、②自社が目標とするROEの内のどの程度を配当するか、という意味での財務戦略・還元との関連や設計意図が長期投資家に理解されやすい、というメリットがあります。つまり、配当を単年度主義でなく、大きな事業サイクルの一環として設計していくことで、市場に対してコミットメントを示すことが可能となります。

当社の場合、今回の計画の大幅下方修正により、今までの配当性向25%の配当政策のままの場合、大幅減益と共に今期予想としても大幅減配となってしまうことにより、株価の配当利回りによる下値抵抗力もなくなってしまうので、それを阻止するという意味で有益だったと考えます。尚、後段で詳細触れますが、今回の26/5期~28/5期までの3期の営業利益の合計額の修正額及び修正率(26/5期の場合は中計予想と実績値の差)は23億円と、当初の予想金額52億円のおよそ▲44%に上り、合理的な投資家の評価からすると、将来の成長期待がほぼ完全に払拭されてしまう、若しくはそれに近い状況です。そうすると、22/5期頃から徐々に顕在化した、IPへの出資増の効果によるキャッシュフロー水準の切りあがり、そして株価バリュエーションの切りあがりのタイミングの「前」の長期平均であるPBR 1.5倍程度(26/5期のBPSを基準とすると750円程度)の水準まで下落してもおかしくはなかったと考えます。今回、PBR 2倍程度の水準で株価が推移しているのは、DOEの効果が大きいと私どもは感じています。

IGポートを含め、出版やアニメ制作にてIPを世に送り出す企業は、自社で製作、若しくは出版した様々なIPの権利に基づく価値が、日本の会計制度上、純資産価値に反映されず、放送や映画の公開と同時に一気に費用化(償却)されてしまうため、私どもは、本質的な株主価値は、簿価で示される純資産額を大きく上回ると考えていますが、株主及び投資家がその将来価値に悲観的になってしまう場合(現在のIGポートの状態)、その関係性が大きくマイナスに歪むこととなります。そのような状況で発表されたDOEによる配当政策は、少なくとも配当水準を「岩盤」としてコミットすることで、株価の大幅な下落を阻止する十分な意義があったと考えます。業績面で苦しい局面においても、明白なコミットメントに基づいて減配を阻止するという覚悟を見せていただいた点は経営陣に感謝をしたいと思います。

次に、中期経営計画の今回の修正に関してとなります。以下の二点につき、コメントしたいと思います。

① ローリング計画の弊害と中期経営計画の意義について
② IGポートのグループ管理機能と経営の意思について

先ずは、以下の図に2022年から公表されてきた中期経営計画の営業利益予想の推移を辿ってみました。

図:ローリングによる営業利益予想及び実績の推移

(出所:当社IR資料)

26/5期の予想の推移を例に取る(図の赤点線)と、2023年時点の計画では、営業利益が13.8億円だったものが、翌年2024年のローリングでは、21.3億円に大きく増額され、その後、2025年に17.9億円に減額、さらに実際の着地は7.7億円となっています。また、27/5期の予想については、最初に計画として数値が公表された2024年時点では23.2億円が今年の計画(予想)では5.8億円まで大きく減額されています。

最初の懸念点である①ローリング計画の弊害と中期経営計画の意義について、ですが、先ず、中期経営計画をローリング設計にしている時点で、目標水準設定の際の練りこみと、戦術へ落とし込んでいく業務実行部分のプロトコルが両方曖昧になってしまってはいないか、という懸念となります。当社の特徴として、大型作品の納期のずれや、公開タイミング変更などによって年度計画が大きくブレてしまう特性及びリスクがあることは、私どもも株主として十分に理解しております。ただ、その上で、今回の業績や中期経営計画の修正で「現象面で」気になる点は、(1)株式会社プロダクション・アイジーに統合された旧・株式会社シグナル・エムディの制作作品の大幅な予算超過(影響額▲7.7億円)があったこと、そして、(2)新規事業である商品売上(いわゆるキャラクターグッズ販売)の営業利益が、27/5期と28/5期合わせて合計で約30億円も下方修正され、今後2年間ほぼ損益トントンの状態が続くという計画になっている点です。当事業そのものに対する姿勢が180度転換しているように見受けられます。

そもそも、中期経営計画とは、単なる予算やイメージの積み上げの計画を対外発表しているものではなく、上場企業の使命である「将来キャッシュフローの総和の最大化」を目指し、その目的を達成するために直近の3年~5年において企業として何をしていくか、どのように成長していくか、という社内外含めた全てのステークホルダーに対する「宣言」「コミットメント」のようなものであるべきだと私どもは考えています。多くの企業では、中期経営計画の達成度合いや予想の精度に関して自己分析し、その反省や、今後に生かせる点などを対外発表した上で、さらなる成長へのドライブ力強化につなげています。

続いて、次の懸念点は②IGポートのグループ管理機能と経営の意思について、ですが、こちらも①と密接に関係しています。先ず以下の図をご覧いただきます。

(出所:Hibiki Path Advisors SPC)

この通り、企業には先ずプロジェクト単位で予算があり、それをユニットや事業単位で積み上げ、その上で企業価値最大化、つまり将来キャッシュフローの最大化、に向けて、企画部門や経営陣にて、何度も議論を行った上で、全体としては高いハードルを達成する姿勢にて中期経営計画を策定することが一般的です。尚、現実的には、各事業単位に課す社内目標の積み上げ数値が、実は中期経営計画より水準が高いという場合も多く見られます。自社でコントロールできないマクロリスクもあるため、経営の判断として一定のリスクバッファを見込むことも当然ながら許容されるものと存じます。

しかし、私どもが申し上げたい本質的な点は、図にある通り、中期経営計画には、単なる宣伝ではなく、「意思」と「覚悟」が表現されるべきものであるということです。当社の場合は、事業会社の持ち株会社として最上位に位置する、上場エンティティであるIGポートの取締役会がその意思を表現する最高意思決定機関です。傘下の事業会社をドライブし、状況に目を光らせることがコーポレート・ガバナンス上の役割ですが、実は「管理」だけではリスクテイクが忌避され、将来キャッシュフローは低下し、企業としては衰退しがちです。上場企業の経営の通奏低音に、成長への渇望という強い意思が必要です。その強い意思によってとるべきリスクに果敢に挑めるのです。正直申し上げて、特に今回の中期経営計画の数値だけを見ていると「IGポートグループとして成長する」という強い意思が果たしてあるのか、疑問に感じる部分があります。

最近では、取締役会とは別に、主要メンバーと外部のアドバイザーなども交え、経営戦略会議のような形で、「10年後等の自社のありたい姿」「そのために何をせねばならないか」というテーマに絞り、定期的に徹底的に討論する、といったことも多くの企業で一般的になってきています。特に経営層は、どの企業でも大変な激務であり、日々の意思決定で多忙な中、企業を永続的に発展させるために、そういった長期目線で、ミッションをしっかりと定義し、その道筋も出来る限り具体的にイメージする、というプロセスは、このVUCA時代にこそより大切になってきています。当社にそういったアプローチが既にあるとしたら、是非中期経営計画でそのイメージを表現していただきたいですし、もし未だにそういった会議体が設けられていないのであれば、是非導入を検討していただきたいと感じます。

特に、当社の場合、IPの「ライフサイクル全体」からどう収益を刈り取るのか、大局的な視点が必要かと感じます。依然として借入金がほぼない中で、69億円ものキャッシュ(総資産の46%)がバランスシートに乗った状態であり、将来のキャッシュアロケーション(つまりどのように成長のために使うか)の提示がない状態です。縮小均衡に陥らずに将来キャッシュフローを拡大するためにリソースをどう使っていくか、どのようなヒット作品を作り、その作品のライフサイクル全体にどう絡むか、それを提示するのが「上場企業としての当社の経営者」の使命だと思います。

私どもは、IGポート傘下の株式会社プロダクション・アイジーや株式会社ウィットスタジオ、株式会社マッグガーデンが世の中に送り出す、強い個性とその想像力溢れる作品に株主として引き続き強く魅せられています。サンリオとの提携により、新しい表現や手法にも挑戦されており、IGポートグループの将来の成長についても強い期待を持っています。そして、制作の現場には、多くの従業員の皆様の多大な献身が伴っており、良い作品を作りたいという強いエネルギーが原動力にあることを知っています。ただ、「株価」は理論的には一株当たりの株主価値の近似であり、株主価値は将来キャッシュフローの総和の現在価値から負債を引いたものです。「株価」は市場の期待によってその理論価値から上下に乖離しますが、最終的にはヒト・モノ・カネを最大限活用して得られる中長期のキャッシュフローの増加(もしくは縮小)に依拠するのです。「株価」を上げたいのであれば、(今の瞬間の、ではなく)将来のキャッシュフローを上げる事業戦略を立案、実行することが一丁目一番地であり、それを世に示すのが中期経営計画です。上場企業の経営にとっては、様々な外部環境の変化や逆風などがありながらも、将来キャッシュフローを最大化し、企業価値と株主価値を最大化させることが究極的な使命です。その使命を全うする上で、傘下の事業会社の状況を把握し、その上で「成長を目指し」リソース配分と果敢な投資(リスクテイク)の意思決定を担っていくのです。

今回は、敢えて当社の「厳しい友人」として、叱咤激励の意味を込めて、忌憚なくコメントをさせていただきました。IGポートの経営陣の皆様には、私どもが感じた①ローリングの中期経営計画の意義、そして②経営の意思、という課題につき、真摯に議論を重ねていただきたく、そして、将来キャッシュフロー最大化のために成長する強い意思とそれを精緻に実行する、強いIGポートの姿を再び見せていただけると幸いです。


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