2024年12月4日 ー 株式会社河合楽器製作所 ディスカッションについて

先週、主要投資先の河合楽器製作所(「KAWAI」)まで出向き、久しぶりに対面にて取材及び今後の方向性に関しての意見交換を行いました。ここに簡単に報告をさせていただきます。以下は本社入口にあるShigeru Kawaiのブランドイメージポスターと、新たに展示されていた、戦前(1937年~38年)に製造された64鍵のピアノです。100年近く愛されるブランドの原点を見る思いでしたので写真を添付致します。

事業の状況に関しては3点興味深い点を伺えました。先ず、説明会でも言及がありました通り、欧州市場での売上の回復です。楽器販売各社も全体的に欧州が底入れ傾向であることは共通のトレンドですが、特にKAWAIの場合、電子ピアノが台数ベースでは今期既に前年比プラスになっているとのことで、他社に比べて頭一つ抜けた印象です。2021年のショパン国際ピアノコンクールのファイナリスト12名の内3名がKAWAIの最高級シリーズShigeru Kawaiを選択したことに加え、昨年10月そのショパンの聖地であるワルシャワ市にショウルームを兼ねた支店をオープンし、マスタークラス等の活動を積極化しており、ブランド価値及び認知度の向上が着実に進行していることを感じさせます。KAWAIは元々電子ピアノにおいて音質と打鍵の感触にこだわる高価格帯品が強いだけに、グランドピアノのブランドイメージが直接電子ピアノにも展開しやすい面があり、今後の欧州やその他市場でのシェア拡大に向けて良いポジショニングにつけつつあります。

次に、中国事業に関してです。国家政策の転換もあり、ピアノ市場は極めて難しい状況であり、今後も数年は回復が見込みにくい環境ですが、KAWAIの場合、中国市場向け製品(アップライト、電子ピアノ)の大半が、業務提携先のパーソンズ社のOEMによる生産であり、販売が減少しても他社のように生産稼働面の限界利益的な悪化がほぼなく、実はその面では他社比ダメージが小さいという点です。今後は、グランドピアノや高級価格帯の電子ピアノの販売を強化していくことで、構造転換しつつある中国市場で存在意義を発揮していく模様です。

最後に、インドネシアの新工場投資についてです。2026年稼働で、電子ピアノの生産能力をほぼ倍増させるというご計画ですが、現インドネシア工場は既にキャパシティがフルに近い稼働状況であり、今後の売上拡大に対応するための前向きな投資であるということです。新しい生産プロセスも導入され、より自動化された効率的な設備になり収益性の改善にも寄与します。これは、まさに現在KAWAIとして、グローバルで統一した新しいブランドコンセプト及びメッセージを1月に米国アナハイムで開催されるNAMM(National Association of Music Merchants)showにてお披露目公開し、今後世界レベルで攻めのマーケティングをしていく点と呼応しています。今までとは全く違うプッシュ型でデジタル媒体も積極活用し、マスマーケットにおけるKAWAIブランドの浸透を図ることが企図されており、その受け皿として電子ピアノは最も重要なセグメントとなる故に、先んじて投資を決めたということで、河合新社長と現経営陣の果断な決断が次期中計(2025年~2027年)にて花開くことを応援したいと思います。

エンゲージメントに関しては、今回もいくつか資料を作成しプレゼンテーションをさせていただきました。内容は未公表とさせていただきますが、この2年程度で大きく進化し続けるKAWAIの資本市場との前向きな対話姿勢を改めて高く評価させていただいた上で、引き続きPBRが 0.6倍未満であることも鑑み、叱咤激励の気持ちでIR施策面や財務目標設定など、次期中計に向けた様々なさらなる打ち手についても意見交換をさせていただきました。おおまかに、①現在進行中のブランドリニューアル準備が非常に忙しい状況であることは理解しつつ、そのブランド価値向上活動とIR活動は切り離すべきものではなく、戦略的一貫性を持たせることで、高いシナジー効果を見込めるということ、また、②株主から次期中計を支援いただき、見守っていただくためのディシプリンの効いた財務係数目標や資本政策に関してセットにしていくことで、機関投資家からの評価を高め、資本コストの低下(≒PER/PBR倍率の改善)に結びつかせる、謂わば、定性面と定量面の「合わせ技」の重要性を改めてお伝えしました。

私たちひびきは、当初よりKAWAIのブランド価値に注目しています。その最高級グランドピアノであるShigeru Kawaiシリーズは、先月、コロナ禍の中止を経て6年ぶりに開催され、史上初の日本人優勝者(鈴木愛美さん)でも話題にもなった第12回浜松国際ピアノコンクールにおいても、ファイナリスト6名の内3名が選択し、スタインウェイ選択の2名、ヤマハの1名を凌駕しています。今回、書類審査を経て87名のコンテスタントが浜松で現地参加されましたが、本選の最初のステージである第一次予選でのShigeru Kawai選択率は40%を超えていた(!)ということを取材にてお伺いし、プロ奏者の演奏を支えるトップブランドの一角に君臨していることが改めて確認出来ました。これは素材から製造加工までこだわり抜いたKAWAIの長年の職人気質によってなし得ているものであり、音楽振興において一朝一夕ではない本質的な価値を持った企業であることを意味しています。

今回、最高級シリーズShigeru Kawaiグランドピアノのブランド価値を生かしつつも、マスマーケットにおいても改めてグローバルの視点でKAWAIとしてのブランド価値を高めていく方向に舵を切ったことは、KAWAI自身が「良いものを作っていれば売れるであろう」という、高度経済成長時代の名残からくる、日本企業全般にまだ見られる一種ナイーブなおごりから、前向きな意味で決別をしたと私どもは理解しています。今まで培った貴重な日本の文化や伝統、価値観などを未来に残すためには、殻に閉じこもりノスタルジアに浸ることは実は逆効果であり、反対に世界に打って出でその価値観をさらに大きく認知させることで、企業や事業としての拡大再生産を図り、その伝統を時代に合わせて進化させつつ引き継いでいくことが王道であるべきです。1999年に発売され、20年以上を経てトップランナーの仲間入りを果たしたShigeru Kawaiブランドの成功体験を活かし、世界を見据えたKAWAIの今後の新たな挑戦に株主として大いに期待をしております。

過去の当社へのエンゲージメントは、下記リンク先資料及び動画をご覧ください。
2024年6月8日 ー 株式会社河合楽器製作所 ディスカッションについて
2024年1月14日 ー 株式会社河合楽器製作所 企業価値向上に向けた取組みのご紹介
2023年9月4日 ー 株式会社河合楽器製作所 エンゲージメント アップデート動画について

【関連投稿】
松井証券マネーサテライト: 話題のアクティビストに聞く!個別銘柄編:河合楽器製作所


尚、本投稿は特定の有価証券の申込の勧誘若しくは売買の推奨または投資、法務、税務、会計などの助言を行うものではありません。

関連記事

RSS 関連ニュース

ページ上部へ戻る