Hibiki Path Advisors(以下、「私ども」といいます。)は、投資先の一社である日本高純度化学株式会社(以下、「当社」といいます。)に対し、当社株主の共同利益を確保するべく、筆頭株主の立場から、株主提案を実施いたしました。
私どもは、本提案の前提として、株主からの負託を受けて企業価値最大化に向けて経営を担うべき当社取締役会が、次に述べるとおり、企業価値を蔑ろにした経営を継続しているものと認識しており、このような状況を筆頭株主として看過出来るものではないと考えております。当社が上場を続ける限りは、当社経営陣は、筆頭株主を含めた一般株主の要請と真摯に向き合い、種々の施策を通じて企業価値向上に邁進いただくとともに、株主からの負託を受けた上場企業の経営者として、良い面、悪い面の両面で、その結果についても責任を担う覚悟をもっていただく必要があり、仮にそういった取り組みを忌避し、経営陣固有の目線において良いと考える方策を突き進めたいのであれば、経営と保有の一体化を実現するMBO¹を含めた非上場化の道も検討すべきです。
私どもとしては、当社の潜在的価値に大きな魅力を感じ、企業価値最大化に向けてよりダイナミックな施策を実施いただくことのみを願い、真摯に寄り添いエンゲージメントを行って参りました。にもかかわらず、今回、2018年より長年にわたる私どもからの友好的且つ真摯なご提言、及び、2025年3月末日時点で、株式の約18%(自己株式を除く。発行済株式6,067,200株、自己株式290,707株を前提に算出)を保有する筆頭株主としての私どもからの要請を一切考慮せず、見解の相違を埋めるための努力を放棄した当社の対応を踏まえ、全ての当社株主の共同の利益を守り、また最大化すべく、改めて本株主提案を実施する結論に至りました。
株主共同の利益の最大化に向けた私どもの株主提案は、以下の3項目、4提案です。
➀ 株主提案(第10号議案):取締役(社外取締役を除く)に対する株式報酬の強化
➁ 株主提案(第11号議案):剰余金の配当等の決定機関に関する定款一部変更の件
➂ 株主提案(第12号及び13号議案):ROE向上に向けた株主還元の強化(自己株式取得、配当の強化)
まず、➀株主提案(第10号議案):取締役(社外取締役を除く)に対する株式報酬の強化に関して、私どもとしては、当社が株主共同の利益を蔑ろにした経営を続けている最大の理由は、経営陣が企業価値・株価向上を十分意識するに足る報酬設計が用意されていないからと考えております。
「企業価値・株価向上を十分意識する」という状態を実現するためには、「筆頭株主を含む一般株主と目線・利害を一致させる」必要があります。企業価値向上に伴う株価上昇時に経営者自らも充分な経済的利益を享受し、経営の失策で企業価値が毀損され株価が下落する際には自らも損失を被る、そのような攻めの報酬設計がなければ、現状当社が陥っているような、自己保身を主軸とする守りに徹した経営に終始してしまい、企業価値の向上のために必要となる、リスクをとった経営判断を下していくことができません。さらに、添付株主提案書の「提案の理由、議案1」部分にも記載しておりますが、当社は昨今のみならず、長期にわたり業績が低迷している(図1ご参照)にもかかわらず、取締役(社外取締役を除く)に対する一人当たり金銭報酬額は増加の傾向にあります。営業利益及び資本収益性が低迷する中で金銭報酬が増加する報酬設計は、一般株主の利害とは完全に逆方向のインセンティブに帰結しており、看過出来るものではありません。
図1:当社長期業績推移と資本・資産収益性
※ROE/ROAの分子は、営業利益に各年の(1-税率)を乗じて算出
(出所:Bloomberg、当社有価証券報告書等よりHibiki作成)
かかる環境下、私どもとしては、このようなインセンティブ設計を見直し、金銭報酬と同水準の株式報酬を受け取ることによって、業務執行取締役の皆様に株主と同じ目線に立ち、企業価値の向上や、株主共同の利益の追求を正に自分事として捉えながら業務を遂行いただくとともに、実現した企業価値向上の果実を株主と分かち合っていただきたいと強く希望し、本提案を上程することといたしました。
当社は、私どもの本株主提案に対して、2025年5月20日付で開示された反対意見の中で、「本議案のとおり、業務執行取締役の報酬構成を、ROEやTSRを含む業績連動型の株式報酬の比率が報酬総額の50%以上となるよう設計した場合、業務執行取締役の報酬構成が過度に業績連動報酬に傾斜したものとなり、一時的な大幅な増配や大規模な自己株式取得等による短期的なROEやTSRの向上を志向するインセンティブが強く働いてしまう可能性があります。」と述べておりますが、かかる当社の見解は、私どもの企図している株式報酬の本質を完全に見誤った解釈であると考えております。
そもそも、当社の株式報酬には取締役の地位を退任するまでの譲渡制限が付いており、増配や自己株式取得等の行動で一時的にROEやTSRを向上させたとしても、その結果として中長期の企業価値が低迷し、受け取る株式報酬の株式価値が低迷してしまえば、結果的に取締役としての最終的な生涯報酬総額はその株価の下落を通じて減少することとなり、そのダウンサイドリスクを中長期な視座を持つ株主と共有するからこそ、株主と目線が合うこととなります。また、同様に「報酬構成が過度に業績連動報酬に傾斜」することのみで、「短期的なROEやTSRの向上を志向するインセンティブが強く働いてしまう」ようなことがもし事実であれば、それは取締役としての忠実義務・善管注意義務を負う立場とは相反することを意味し、取締役として適任ではないと考えられます。
次に②(第11号議案)についてですが、後述の➂株主還元強化(第12号及び13号議案)を上程する前提として、➁株主提案(第11号議案):剰余金の配当等の決定機関に関わる定款一部変更を提案いたします。会社法第459条第1項は、同項各号において、株主総会で決議されるべき事項として剰余金の配当等を列挙した上で、これらの事項を取締役会が決定することができる旨を定款で定めることができるとするところ、当社は、同条項に基づき、定款第44条に剰余金の配当等について取締役会が決定する旨を規定しています。このように、剰余金の配当等について、会社法の原則上、本来決定権限を有するとされる株主総会の影響力を排し、取締役会に決定権限を置いております。当社との関係では、かかる定款の定めが、当社の余剰資産の状況を踏まえない恣意的な配当額の決定等につながりうるものと考えております。
私どもとしては、会社の所有者は株主であることを再確認し、会社法が「原則として株主総会で決議する事項」と定めているものは、株主総会で決議するべきであると考えます。しかるに、当社取締役会が、企業価値向上の観点から、余剰資産を踏まえた本来あるべき水準の、かつ、機動的な剰余金配当を行っているとは言い難い現状に鑑み、現行定款は、本提案の変更案と比較して株主総会の意向を排除することを目的としたものといわざるを得ず、特に当社においては、このような株主総会の決定権限を取締役会に委ねる合理性がないことから、本議案の提案をする次第です。
当社は2025年5月20日に開示された反対意見の中で、「当該定款変更は株主還元を制限する目的で行ったものではない」との説明をされております。しかしながら、同社取締役会の意見として株主提案②(第11号議案)と併せて、当社が目指すと自ら公表されている「ROE10%水準」を特別利益等の特殊要因を抜きに合理的に達成するために想起された株主提案➂(第12号及び13号議案)にも反対されております通り、当該定款は、株主が適切だと考えた水準の株主還元の提案を、当社経営陣の独断により容易に制限する仕組みとして実質的に機能しているといわざるを得ません。
また、本株主提案通りの定款変更がなされた後においても、取締役会が剰余金の配当等を決議することは制度的に確保されていることから、機動的な株主還元が阻害されることにはなりません。
実際に昨年度私どもが行った同様の趣旨の株主提案においては、約4割の株主の皆様にご賛同いただいており、これは東洋経済新報社、会社四季報2024年夏号における上位30株主のうち、当社の関係者あるいは持合い関係株主だと推測される株主らの議決権合計約15,000個が反対したと仮定して、計算から除外した場合、一般の個人株主や機関投資家株主等の約60%の賛同を得た計算となり、私どもの提案の合理性が高いことを示唆しています。
最後に➂株主提案(第12号及び13号議案):ROE向上に向けた株主還元の強化に関してですが、私どもは2023年2月公開の当社との議論にも記載いたしました通り、当社の企業価値向上に向けた最大及び喫緊の課題は、過大な現預金の蓄積及び政策保有株式の維持による、資本収益率(ROE)の低迷と考えております。
最新の25/3期末では、当社が有する現預金は総資産の約47.8%、純資産合計の55.8%に及ぶ約76億円、投資有価証券等は、総資産の約37.7%、純資産合計の43.9%に及ぶ約60億円に上り、合計では、総資産の約85.5%、純資産合計の99.7%に及ぶ約136億円が、事業とは直接関係のない余剰資産として、いわば死蔵されている状態です。その上で、当社の過去の業績を踏まえると、政策保有株の保有によって、業績面に有意な形で効果が出ているとは到底感じられません。加えて、そのような状況においてもなお、当社は早急な対応を避け続け、4月28日に開示された中期経営計画では、政策保有株の縮減目標を2024年3月22日に発表された「今後1~2年以内」から「28/3期まで」と大幅に後退させている有様です。
当社の2025年5月20日に開示された反対意見では、「①総合的なキャッシュアロケーションを考慮した上で株主還元に関する方針を策定することこそが、中長期的な企業価値の向上につながり、株主共同の利益に資するものと考えている点、➁仮にこれらすべての議案が可決された場合、当社の財務健全性を損ね、成長投資の機動性を損なう事態を招来するものであり、中長期的な企業価値の向上が妨げられる」との2点の記載がありますが、そもそも営業利益をベースに簡易的に計算したROE²が、過去5年間を平均すると4%にも達しない中で、純資産と同水準の現金及び投資有価証券を維持し続ける事に合理性はなく、上記反対意見は、当社現経営陣が保身に向けた現預金の確保と持ち合い関係の維持を企図としていると考える方が妥当と思われます。
また、上記財務面での健全性に関しては、昨年11月に私どもが当社経営陣と議論を行った際に利用した「添付2: 株主還元とM&AのROEのシミュレーション」に記載の通り、仮に私どもの想定する資本政策と、30億円程度のM&Aを実施したとしても、当社の現預金は純運転資本の約3年分程度に相当するにとどまり、なお余りある現預金がバランスシートに存続すると想定しており、この分析内容に関して当社からの合理的なご回答・見解は頂けていない中で、前記のように合理的根拠に基づくことなく「感覚的な」懸念であるリスク増大を理由に、私どもの真摯な提案を一切考慮及び一般論としても議論しようともしない当社経営陣の姿勢には、強く失望しております。
上記を踏まえ、私どもは、ROEの本質的な改善に向けた、早急な現預金及び投資有価証券の縮小ないし有効活用及びそれとセットとなる純資産の意図的な圧縮を目的に、その先鞭をつける観点からも、まずは有価証券の一部売却を通じて積みあがっている、現預金約76億円(一株当たり約1,313円)を活用した株主還元と、その前提としての定款の一部変更を提案するものです。
私どもは、当社の業績が長期低迷する中、これまでに行ってきたような対処療法を、小出しに行い、抜本的な決断を延伸し続ける事態は、株主共同の利益に反するのみならず、事業の競合優位性や付加価値を減殺するもので、顧客取引や従業員の人生を含めたステークホルダー全体の不利益へと繋がるものであると考えております。株主の皆様におかれましては、株主共同の利益を向上、最大化する観点から、私どもの提案にご賛同いただき、ぜひとも、積極的な株主権(議決権)の行使をお願い申し上げます。
今回は私どもと当社との意見の相違を踏まえ、株主の皆様の信を問う観点で、株主提案を行うことになりましたが、本株主提案は、私どもが当社の技術力、そしてその潜在力を高く評価していることの裏返しでもあります。その類まれなる潜在力が、当社では売上と利益の拡大という形で実現できていない状況の上、長年企業価値向上に資する研究開発投資や人材開発を充分に行わなかったことにより画期的なイノベーションに繋がらず、バランスシートに現金と有価証券をため込む、という負のサイクルが生じていると私どもは考えております。その結果、ROEや企業価値が長期にわたって低迷しているその「経営の責任」が問われないまま、既存のやり方を踏襲しようとする安直な経営が罷り通ってきた、所謂、経営層のガバナンス不全の問題が潜んでいると考えております。
私どもが当社に問うている問題は、実は当社のみならず、優良な技術や有能な従業員を擁する多くの日本企業に共通する「経営のガバナンス問題」であると考えます。そういった本質的な問題に光を当てる目的で本株主提案を実施しております。私どもは、日本における資本市場の健全化及び株主の根源的な権利を守る観点でも、不退転の決意で全力を尽くしてまいる所存です。
¹2024年9月9日付け公開書簡「株式非公開化に係る検討のお願い」
²特損益を除き、純粋に事業から生じる利益のみを含める簡易計算(営業利益に各期の税率を乗じて算出)
なお、今回の資料等の公開については、特定の有価証券の取得の申込みの勧誘若しくは売買の推奨又は投資、法務、税務、会計その他いかなる事項に関する助言を行うものではありません。