2023年7月14日 ー 株式会社IGポート 決算コメント

7月14日の引け後、私どもの主要投資先のIG Port(「IG社」及び「当社」)が2023年5月期の決算発表を行いました。大変好調な決算でしたが、ここでは、私どものあくまで一投資家としての感想(私見)を簡単にお伝えしたいと思います。尚、本投稿は情報の収集の際に内容の正確性につき細心の注意を払っておりますが、その正確性を保証するものではありません。また、本投稿は特定の有価証券の申込の勧誘若しくは売買の推奨または投資、法務、税務、会計などの助言を行うものではないことをご了承をいただきたくお願い申し上げます。

先ず、今回の発表の決算説明会資料(IG Port HP)は過去のものに比べて格段に内容が充実してきており、過去から長期で拝見してきました私どものような株主にとっては道筋をたどる上でさらに明快さが加わり、非常に嬉しい内容です。分かりやすくする努力を継続してきたIRの皆様には感謝したいと思います。ただ、同時に、実は当社の複雑なビジネスモデルと事業サイクルの長さを改めてより明確に実感する内容となっております。その点についても解説をしていきたいと存じます。

2023年5月期は前期比若干の減収であったものの、経常利益で10億円と過去最高を記録しています。期中にも通期の経常利益を2度(4.8億円→7.7億円→9.2億円)上方修正を行っていますが、その数値をさらに上回る、素晴らしい着地でありました。内容も、映像制作、出版、版権の全セグメントで当初の利益計画を上回っていますが、その中で、私どもが最も好感を持ちましたのは映像制作セグメントです。

映像制作セグメント(及び版権セグメント)を担う2つのコア事業会社はProduction I.G.とWIT Studioです。現段階ではそれぞれの収益内容は分からないのですが、過去、プロジェクトマネジメントで赤字を抱え込み問題を抱えていたWIT Studioにつき、22/5期の説明会資料に以下のページがあり、テコ入れを図っていた成果が大きく出てきているものと私どもは推測しています。

(出所:2022年5月期当社説明会資料)

具体的には、23/5期の説明会資料p.7とp.21にある通り、映像制作セグメントで22/5期に引き当てていた期末受注引当金(損失)の3.2億円の内、半分以上の1.7億円が23/5期に戻し入れ益となり、短期の内に単価や管理ノウハウが改善していることを意味するのではないかと私どもは推測しております。良い作品を獲得し、版権収入を得る上での大事なフック(当社の比較優位)となる映像制作が昨年の大幅な損失計上から復活を遂げているのは中長期な道筋を見る上で極めて大事な要素だと私どもは考えます。今期のセグメント予想を見ても、営業利益予想は5千万円と昨年(23/5)同様ほぼ損益トントンではありますが、昨年も依然1.6億円の期末受注損失引当金があり、この部分が継続的に改善していくか株主としては目を光らせていきたいと思います。

さて、今回改めて極めて興味深いのが、①今期予想の減益と、②中期計画修正による来期(25/5)の営業/経常利益20億円突破の点です。投資家の時間軸によっておそらく感じ方が二極化となる内容です。ここで、新たな開示が加えられたことでIG社の極めて面白いビジネスモデルが改めて浮き彫りになっていますのでその点を長年当社を見てきた株主として、あくまで私見として解説していきたいと思います。

鍵となるのは、決算説明会資料のp.33とp.21です。以下に表示します。

(出所:2023年5月期当社説明会資料)

先ずp.33の図について、車の両輪という表現はまさにそうだと思います(が、私どもとしてはより自転車の前輪後輪のように感じています。ぜひ経営陣の皆様と議論してみたい部分です)。先に述べました「フック」として制作陣が作り出す映像のクオリティ、迫力、繊細さ、時間の使い方、その全てがその作品の世界観に影響し、作品のヒットか否かを決定する大切な要素です。ただ、現実的に見て、最も労働集約的な事業であり、よって高い利益率が狙える事業ではないですが、この映像制作のフックがあってこそ良い作品を選び投資する機会がIG社に入ってくるということです。これが版権事業の燃料となるということです。

4-5年前まではこの版権への投資はいわば当社にとっておまけのような位置づけであまり重視されていなかったと私どもは理解しておりますが、私どもも個別ミーティングや株主総会の場などで何度も当社経営陣に意見交換をさせていただいたことも影響してか、ここ数年明らかに版権への投資を増やし、まさに「良い作品を作るだけでなく自身でも“張る”」という流れになってきたその成果が本格的に出現しているのが今回の決算内容と見受けられます。

次に、p.21で私どもの目から見て興味深いことが、2点あります。

先ず、版権収入の方から見ていきます。売上を見ると22/5期から25/5期まで29億→19億円→15億円と減収が連続する形です(22/5は自社100%作品分で約8億円上乗せされている)が、同時に費用である映像マスター償却額も大きく減少しています。この償却額は、いわば「数年前に決めた投資(製作委員会への出資)」のコストが会計上顕在化していることと同義で、それが減少ということは大きく「張った」作品が上市されていない時期ということになります。特に24/5期は、そういう意味で端境期であり、その反面、26/5期にSPY×FAMILY関連の版権収入(TV放送と劇場)など大型の作品が大きく顕在化する(説明会資料p.15&p.22参照)という中期計画なのであろうと私どもは理解しています。

二つ目は、映像制作の方です。22/5期から25/5期まで増収基調を維持します。これの意味するところは、「受注が好調でありアニメの世界的な人気増加の波にIG社もしっかり乗れている」ことかと存じます。さらに、以前までは、「制作してお届けして請負料を頂いて終わり」の請負単発商売が多かったIG社が、以下引用の中期経営計画の基本方針にあります通り、良い作品の長いライフサイクルキャッシュフローの全体を主体的に獲得していく方向に経営方針を転換してきた(制作する作品に自ら投資もする!)ことにより、作品に最初関わって(映像制作)から回収していく(納品+版権)の全サイクルが2-3年以上と長めになってきているのでどうしても利益面で凸凹が生じることになりますが、私どもとしては、事業の考え方及び方向性は正しいと感じております。そして、そのような経営方針の下でこそ、実は映像制作の売上推移は、その後に続く版権収入の先行指標になり得ると私どもでは考えており、その方針を支援したいと考えています。

(出所:2023年7月14日当社プレスリリース)

中計の修正について最後に簡単にコメントしますと、やはり以下の説明会資料のp.31にあります通り、良い作品を制作し、版権収入も得ることで会計上で見た場合の利益の振幅の幅が大きくなってきていることには、市場がその意味するところを色々な形で解釈するリスクが増大するという意味で投資家として一定の警戒心をもって眺めていますが、本質的にはまさにこのp.31が指し示す通り、この「サイクル」が映像系エンターテイメントビジネスの本質であり、IPクリエイター&ホルダーとしての成長の過程には必要な道筋であると少なくとも私どもは感じております。その中で、実は安定的にキャッシュフローを創出している優良な出版事業(マッグガーデン)にある現金価値をいかに出版事業単独のみならず、うまくグループ全体の成長のために振り向けられるかも今後のIG社全体のさらなる成長の鍵になるのだろうと感じており、この部分については是非経営陣の皆様とさらに意見交換をしていきたい部分です。

しかしながら、先に述べました通り、版権事業の初期収益獲得までのサイクルが2-3年であり、振幅も大きいので、市場に自社のビジネスモデルの特徴を良く理解してもらえない場合、単年度の数値により株価の振幅(ボラティリティ)が大きくなり、そのような「動く株」を選好する、トレーディングベースの短期の投資家をより多く惹きつけ、株価のボラティリティがさらに極端に増大し、中長期で投資する投資家が投資しにくい株式になってしまうことが潜在的な懸念であると私どもは感じております。

私どもとしては、IG社が今まで自社で、見えない天井のように定めていた殻を破ってステージを大きく引き上げていく興味深い局面にあると理解しておりますが、しかしながら、市場での当社のビジネスモデルの理解はまだまだ十分に浸透できていない状況でもあると感じております。私どもから改めて経営陣にお願いしたいのは、この「攻め」の機運に乗じて、早期に定期的なアナリスト及び個人投資家説明会を開催いただき、当社を良く理解して投資する中長期視座のファンの株主層をさらに増やす努力を同時にしていただきたいということです。取り急ぎ、23/3期の素晴らしい決算内容には経営陣及び現場の皆様には深く感謝申し上げます。

IG社にも引き続きひびき流の叱咤激励エンゲージメントを継続していきたいと存じます。


本投稿は、特定の有価証券の取得の申込みの勧誘若しくは売買の推奨又は投資、法務、税務、会計その他いかなる事項に関する助言を行うものではありません。

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